需要に供給が追いついていない
看護師の人手不足は深刻な状況にありますが、残念ながら簡単に解決できる問題ではないようです。その理由はどこにあるのか、需要と供給に注目して探ってみましょう。
需要と供給のバランスがまったく合わない
看護師の需要は増加する一方です。日本看護協会が全国8,361施設を対象に実施した調査によれば、看護職員を増員する予定を組んでいる施設は34.5%で、減員する予定の施設は3.2%、現状を維持する予定の施設は53.7%でした。つまり、多くの施設は現状維持かそれ以上の人員を必要としているということです。
厚生労働省は、在宅医療患者が29万人から33万人に達するとされる2025年までに200万人程度の看護師が必要になるとの試算を出しています。2016年の段階で166万人いる看護師をさらに35万人近く増やすためには、毎年かなりのペースで看護師を増やさなければなりません。訪問看護ステーションには、看護師や准看護師、保健師が常勤換算で2.5人いなければなりません。看護師の数が思うように増えないまま訪問看護ステーションの数は年々増えており、看護師の常勤換算は4.8人と横ばい状態です。在宅医療を拡充していくためには看護師の数が今以上に必要です。しかし、看護師の頭数をただ増やせばいいというものではなく、在宅医療で直面するさまざまな状況に対応できるスキルを持った看護師を集めなければなりません。この点で苦戦している医療機関が多く、人員確保に対する危機感は強まっています。
労働環境の過酷さから離職が絶えない
日本看護協会が実施した「2018年病院看護実態調査」によると、正社員の看護師の10.9%、新人看護師の7.5%が離職しています。他の職種と離職率だけで比較すれば、看護師だけが突出して多いわけでもありません。しかし、看護師の需要に対する供給のバランスという面で見ると、需要に対して供給がまったく追いつかない現状が明確になります。
看護師が離職する理由で最も多いのは、「人手不足で仕事がきつい」というものです。ただ単に仕事がきついのではなく、「人手不足で」きついから離職するのです。人手不足でなければ看護師の仕事を続けられるとするなら、解決すべき問題ははっきりしています。離職する理由で次に多いのが「賃金が安い」というもので、「休暇が取れない」「夜勤がつらい」などと続きます。離職する理由で多いものから順番に見ていくと、ほとんどが人手不足の解消によってある程度解決できる問題です。
退職経験のある看護師の多くは、出産・育児のために退職しています。しかし、その背景には労働環境の過酷さや職場の人間関係などの別の要素があって、出産・育児を表向きの理由としているとの見方もあります。働きやすい職場であれば出産や育児との両立ができるはずで、働き続けたい人が特に問題ない職場をわざわざ手放すことはないからです。
人手不足で疲弊している看護師へ
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なぜ人手不足になっているのか?
看護師が不足するとどうなるのか?
看護師の人手不足は、さまざまなところに重大な影響を及ぼします。人手不足の現場で働く看護師の業務負担は重く、ストレスや不安から離職を考える可能性が高まります。離職者が増えると残った看護師の負担がさらに重くなり、離職者をまた増やすことになりかねません。看護師の疲労が限界を超えてしまうなら、看護の質が落ちて患者さんにも不利益が発生します。看護師の確保が難しい地方の場合、人手不足が病院の閉鎖にまでつながることもあります。
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深刻さを増す人手不足を打開するには?
業務の効率化
看護師の人手不足を打開するためには、労働環境を根本から見直す必要があります。人手不足の医療現場における労働環境の改善に役立っているのがICTです。ICTを看護師の業務に取り入れると、電子カルテや電子薬歴の照会、遠隔診療、介護施設や薬局との連携、ナースコールなど幅広い業務を効率化できるようになります。実際にICTを導入している医療現場では、看護師の負担を減らしながら看護の質を高めることに成功しています。